四月の風

君に会えた四月の風

The Coversの赤いスイートピーとはいったい何だったのか。エレカシ30周年記念BOX NHKセレクションを観た

 

「30th ANNIVERSARY Live Blu-ray Box」Special Disc『NHK Performance Selection』ダイジェスト映像 - YouTube

 

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縁あってお譲りいただいた30周年記念のBlu-rayBOXを見始めた。
やはりまずは、単品では商品になっていないNHKセレクションから拝見。

一曲目が「孤独な旅人」。1996年のポップジャムからの映像。
これが原因でNHKを出禁になったと聞いても、そうかもしれんと思うほどの「宮本、石くんに執着するの巻」だ。
まあ、限定発売の作品なので、詳細は避けるが、私が石森家の母であったら、次の日、宮本を自宅に呼んで、小一時間説教するレベルである。
「まあ、あんたがうちの息子を好きなのはわかったから、お願いだからNHKではギター弾かせてやって。」
くらいのことは言うだろう。

宮本よ、どれだけ愛しているんだ、石くんを…。

こうして驚愕の映像から幕を開けたNHKの極上詰め合わせ。
愛すべき少年性を携えながら、サービス精神満点のステージパフォーマンスは今現在でもブレがない。楽しませよう、そして俺たちの音楽を聴いてくれ!という素晴らしい欲求にあふれている。

しかし、私がこの一枚から見いだした変化は、2014年の「悲しみの果て」からだ。
それまでマイクの位置を若干高めに設定し、下から少し顎を上げた状態で歌っていた宮本。
本来この姿勢だと、声は出しづらいはず。あるギリギリの声を出すためにはこの角度がベストだったのかもしれない。
しかし、この「悲しみの果て」はマイクの位置が普通に立った状態での口の真正面。
そのおかげで、ストレートに芯の太い声がダイレクトに聴こえてくる。
何よりも、歌詞を伝えようという気持ちの圧が凄い。非常に圧倒される。
「俺たちの明日」もそう。
そして「RAINBOW」へ。

私はまだ「Easy Go」を3月のさいたま、4月の荒吐でしか聴いていない。
つまり本人が言うところの「息継ぎ問題」に取り組んでいる真っ最中の状態を聴いていることになる。
これはこれで大変幸せなことだと思う。
なぜなら、ファンの方々が「RAINBOW」だって最初はどうなることかと思ったと呟いているのをいくつも拝見したから。
エレカシは、曲のその成長、いやまず出産シーンからしてさらけ出すバンドだ。
歌が産声を上げるその時。産まれたての赤ん坊が、泣き方すらまだ分からず、しかしその生まれ持った本能で上げる産声のごとき歌声を、私たちに聴かせてくれようとする。
私が感動するのは、ここだ。「歴史前夜」など、そのわかりやすい例だと思う。
そして、この産まれたばかりの曲が、のちに成長していくという確信を持って、誕生を祝うことができる、それもまたエレカシに対する特殊な感情の一つである。
ここで歌われる「RAINBOW」も私が30周年ツアーで聴いたそれとは一味違う。
しかし、ラストで見せる宮本の自信ともとれるちょっとした表情がたまらなく良い。

そして問題のThe Coversの赤いスイートピーとなる。
私はこの番組により、エレカシという名の沼に入った。
自分で沼に入った瞬間の、その片足を入れた瞬間の感触まで憶えている。
先日SNS上で、この歌唱が何度もRTされていた。そのことが正しいか正しくないかという議論は少々棚に上げさせていただく。
問題は、何故一年以上も経つ番組で歌われた一曲に、かくも多くの人達が反応を示したか、だ。
それはリリー・フランキー言うところの「妖精感」だったかもしれない。
それは今では元歌を歌うご本人すら下げているキーを原曲で歌ったからかもしれない。
しかし何よりも、私自身は一生懸命歌っている姿に胸を打たれた。上手いのに、普通に歌って上手いのに、こんなにも真摯に、丁寧に、一生懸命って…。
それはひどく単純なことかもしれない。しかも、「エレファントカシマシ」と「全力」という言葉は以前よりきっちり直線で繋がっている。今さら言うまでもないことだとは思う。
それにしても、だ。ここまでの仕上がりはなかなか予想できなかったと思う。
私は、この赤いスイートピーを観てファンになったという方々を何人も知っている。
歌の持つ力というのは、時に思わぬ曲によって発揮されるものだということを見せつけられた瞬間だった。
そして、その次に歌った「喝采」は、とどめをさすのにこれほど適した曲はないというくらい強烈だった。
私が幼い頃に感じたちあきなおみも、狂気を感じるほどに歌の世界に入りこんでいたが、この日の宮本の凄みは、私のエレカシに対する認識を根底から覆すくらいのものであった。
なぜ私は今までこの人たちの、こういう部分に気づかなかったのだろう?そう歯噛みをするような時間だった。
そのおかげで今があるのも事実。

ということで、この一枚のおかげで、またもや自分が沼落ちした時のことを反芻することができた。

さあ、NHKとの昨年から続く蜜月はまだまだ続くようだ。

5月25日(金) 22:00~22:59(BSプレミアム
エレファントカシマシ披露楽曲】
「さよならの向う側」/山口百恵(1980年)
いとしのエリー」/サザンオールスターズ(1979年)
「Easy Go」/エレファントカシマシ

期待しかない。