四月の風

君に会えた四月の風

「嘘の木」フランシス・ハーディング

 

嘘の木

嘘の木

 


この作品には、なんと多くのことが描かれていることか。
宗教と科学。
種の起源」。
学問に関する男女差別。(実は学問だけに限ったことではない)

ファンタジーだという。
この作品がファンタジーとして誕生していることにまず驚く。
そしてこの本が少年少女が読むそのコーナーに置かれているという意義を考える。
私がこの本を図書館で見つけた場所も「ティーンズコーナー」であった。

昨年、読売新聞の読書委員である宮部みゆきさんが、ベスト3としてあげた一冊である。
横道にそれるが、私は宮部みゆきのファンだ。
どんなジャンルを書いても完成度が高い。面白い。同時代に生まれて良かったと思わせてくれる作家のうちの一人である。
そして、これほど多作であるのに読書委員って…。一度彼女の頭の中をのぞいてみたいし、バカみたいな望みだが、一緒に本を読んでみたい。
優れた作家であり、優れた読み手である彼女が選んだ本ということで、その題名は常に頭の片隅にあった。そうでなければ図書館のティーンズコーナーにあるこの本と出会うことが難しかったと思う。

ファンタジーというよりは、主人公が父親の不慮の死の謎を果敢に解いていくミステリーと
言ったほうがわかりやすいかもしれない。ファンタジー部分は「嘘の木」に関してだけであるから。
しかし、冒頭にも書いたとおり、この作品からのメッセージ量の多さには圧倒される。
ファンタジーの核である「嘘の木」の描写、それにまつわる様々な出来事の面白さ。
しかし、一番感じ取ったことは、女性が生きていくこと、学びたいことを学ぶというあたりまえのことがどんなに大変なことか、先人たちのたくましい行動の一つ一つの気の遠くなるような積み重なりが、今の女性たちにどれだけ勇気と可能性を与えているかということだ。

優れた文学というのはジャンル分けの必要がない。
一作品に置かれた机の抽斗の数は無限であるし、読者の心を打つ部分は読み手の数だけ存在する。

学ぶことのできる環境にいるならば、それを怠ってはもったいない。
そしてティーンズの本棚にあるからといって、それを「大人」が読まないのも、もったいない。