「夫・車谷長吉」高橋順子
先日借りた「人生の救い」を図書館に返しにいったら、眼の前にこの本があらわれた。
どうやら読めと言っているらしい、車谷長吉、その人が。
書いたものがすべてだから、遺骨はゴミとしてゴミ袋に捨ててくれ
まるで車谷長吉を看取るために連れ添ったような、妻であり詩人である高橋順子が書く姿は
既に存在する作品を、より生々しく、濃密なものとして感じさせてくれる。
熱烈なる、といっても恋愛のそれというより、車谷の生き様そのものを煮詰めた絵具で描いたような熱烈な絵手紙から始まるこの二人の交際。
そこからの22年間の二人の生活は、他人が入り込めないような長い二人だけの旅路を見るよう。
「自分を追い詰めてゆくと、長吉の息苦しさと息を合わせているような気になってしまうのだ」
解凍した生のイカを丸のまま飲み込み、誤嚥性窒息死。
死後二日目、からからに乾いたイカの軟骨が1本。何かに生まれ変わったような。
二匹の虎が一つ屋根の下に共存したかのような緊張感。生半可な気持ちでは読めない本だった。