四月の風

君に会えた四月の風

祝是枝監督パルムドール受賞、そして祝・宮本さんお誕生日記念「扉の向こう」

是枝監督、第71回カンヌ国際映画祭最高賞のパルムドール受賞記念。
そして、宮本浩次52歳お誕生日記念として、過去に書いたブログを
加筆修正して再掲しておきます。
「扉の向こう」実に味わい深いドキュメンタリー。大好きです。

 

扉の向こう [DVD]

扉の向こう [DVD]

 

 

私の中の「男」の部分が同調する。
誰にでも男の部分と女の部分が存在していると思っている。
私にとっての、その「男」の部分が、この人を見ていると、ざわざわと揺れ動く。

「歴史前夜」とは誰が名づけたのだろう。
あまりにもそのネーミングは魅力的だ。
ATBにも収録されている「歴史」が生まれる前、フェスで歌詞も曲名もまだつかないままに演奏されたこの曲。
この世の言葉をまだ知ったばかりの子供のように、言葉と、言葉になる前の「何か」を使って宮本が歌う。
このドキュメンタリーはここから始まる。

「誰も知らない」を監督したその同じ年に是枝裕和がプロデュースした「扉の向こう」。
とにもかくにも、コンサートを観てからじゃないと、私の中のエレカシは始動しない、と一ヶ月以上寝かせておいたDVD。
始まって早々、この作品はアルバム「扉」と対をなすものだということを知り、聴いてから観るか観てから聴くか逡巡したのだが、
噂に聞いていた全財産持ち逃げ事件の直後の映像ということもわかり、興味の方が勝る。
ナレーションは、女優のりょう。ドキュメンタリーに合っている、この淡々とした感じ。

今から15年前、宮本37歳。明らかに今の方が健康的。
画面の切り替えごとに煙草を吸っている。

煮えたぎる鍋。
茹でたパスタに出来合いのソースをかけ、これだけでは味気ないとゆで卵をのせる。
牛乳をパックのまま飲む。
茶碗を洗う。
本棚に綺麗に並べられて存在する和本や全集。
カバーが外され、書き込みがなされた岩波文庫
黒い服。
灰皿。
抗生物質
ギター。
消しゴムつき鉛筆。
万年筆。
ボールペン。
何十枚という紙に書きとめられた文字、文字、文字。

電車で移動する宮本。赤羽を歩く宮本。メンバーに苛立つ宮本。
そうか、ここで言うのか、すっとこどっこい、と。

昨年の神奈川公演を観て、あぁこれで私は何を観ても大丈夫だ、と思えた。
トーキングフルーツで、古舘さんが「もし万引きをして捕まったとしても好きです」というようなことを言ったと思う。
この表現が倫理的に正しいかどうかは置いておいて、この人に対する感情として非常に理解できる。

全財産を持ち逃げした相手に、神田の古本街でばったりと出会い、「元気そうだった」と思ったという。
「現金を持ち逃げされてもブランド物を持っていればそこそこの値で売れるから便利」
メンタルの強さではないと思う。じゃあ、何なのかと言えば、やはりそれは「やさしさ」と常に前進を意識する気持ちなのではないだろうか。

数々の宮本伝説が巷に存在する中、実際にこうしたドキュメンタリーを観ると、際立つのは芯のブレのなさ、自分を鼓舞する力。
混沌とした感情の中で生まれるものの凄まじさと静けさ。そうした二面性に鳥肌がたつ。
この人を見ていると、私は男になってみたいと思う。
同性としてこの人を見てみたいと思う。