四月の風

君に会えた四月の風

辻村深月「かがみの孤城」

 

 

かがみの孤城

かがみの孤城

 

 


辻村深月とは不思議な作家だ。
子供と大人のちょうど中間のところに空間があって、そこに一つの部屋がある。
大人と子供を行き来しながら、きちんとその中間地点で物を書くことができるそういう作家だと思っている。まるでこの作品そのもののように。

「かがみの孤城」は、やはりまず中学生に読んでもらいたい。
学校に行きたくない、行きたいけど行けない、世界中に頼れる人など一人もいない、そんな風に思っている子にまず読んでほしい。
そして次に、学校も楽しい、友達もたくさんいる、そんな子に読んでもらいたい。
最後に、中学生だったことのある、そして中学生にこれからなる全ての人におすすめしたい。

あることをきっかけに中学校に通うことのできなくなった主人公。
ある日一人で家にいると、部屋の鏡が光り出し、触れたとたん鏡の向こうの世界へと引き込まれる。
そこは城の中。そこにいたのはやはり学校に通っていない中学生たち。
彼ら、彼女たちにはある課題が出される。猶予は1年。
少しずつ、衝突しながらも心を通わせていく7人の子供たち。
そしてある共通点があることに気づく。しかしそのことが現実世界での謎を深めていく。

伏線があらゆるところにはられている。それに気づく頃には、もうページをめくる手がとまらない。
主人公の心の動きと読んでいる自分の心が同調し、鼓動が高まる。
そうじゃないかなぁとか、そうだったらいいなぁと読みながら思っていたことがたくさんある。
全ての伏線が見事に繋がる瞬間の輝きは、大いなる力を発揮する。
私は、物語のもつ力、小説が持つ力を久しぶりに目の当たりにした。
この物語は、私たちに手を差し伸べてくれている。
次はあなたの番だよ、と大きな声で叫んでくれている。

幼い頃、本が友達だった私にとって、久しぶりにその「友達」に再会した。
謎解きよりも大事なものが、この作品には描かれている。